『月とキャベツ』の縁から生まれた新たな山崎まさよし×篠原哲雄監督作品(映画『影踏み』篠原哲雄監督インタビュー)
2019/11/03
映画『月とキャベツ』を毎年上映している映画祭がある。群馬県中之条町で開催される伊参スタジオ映画祭だ。この映画祭は『月とキャベツ』の撮影をきっかけに始まった映画祭で、毎年シナリオコンクールで選ばれた作品を書いた本人が監督し、この映画祭でお披露目している。
11月15日公開の『影踏み』は篠原哲雄監督が『月とキャベツ』の主演・山崎まさよしを迎え、作り上げた作品だ。
原作は『陰の季節』、『臨場』など警察小説が数多く映像化されている横山秀夫。彼の作品には珍しく、主人公は孤高の泥棒だ。ダークヒーローが暴くミステリーをどのように映画化したのか。10月24日、名古屋で篠原監督にお話を伺った。
Q.いろんなタイプの映画を撮られていると思いますが、横山秀夫さんの作品を映像化きっかけを教えてください。
篠原監督
「変な言い方になりますが、横山さんの原作をものすごく気に入って「作ろう!」と思ったというわけではなくて山崎まさよしくんと次に何かやれないかなあと思っていまして。それが『月とキャベツ』から20周年の頃だったんです。伊参スタジオ映画祭という映画祭では毎年『月とキャベツ』を上映してくれているんですが、シナリオ大賞というものも毎年やっていまして。賞を獲った作品が映画化されていくという流れになっています。その審査員を3年ほど横山さんが務めてくださっていて。僕もやっていたんです。山崎くんと何か映画化したいねと言った時に山崎くんが横山さんファンであることがわかって、横山さんの原作でやろうよという話になったんです。でも大概の作品は横山さんの作品は映画化されているじゃないかと気が付いて。横山さんの作品の中で映像化されていなかったのが『影踏み』なんです。横山さん側から「『影踏み』はいかがでしょうか。山崎さんには合っていると思います」と提案があったんです。そういうことがあって僕も『影踏み』を読んでいいんじゃないかなと。ですのでこの作品に惚れ込んでという言い方ができないんです。もちろん原作は読んで面白かったですし、奇しくも偶然『月とキャベツ』が出来た20年後にやろうとした作品として『影踏み』は原作では主人公の耳の中に声が聞こえてくる人物との話で、自分の分身の存在がいて過去の軋轢やトラウマは分身の消失と共になくなっていくわけです。霊的な存在なんですよね。霊的な存在を凌駕して自分の道を歩み出すという作り方は『月とキャベツ』に似ているので共通項が見いだされてきたんですよ。経緯でいうと歪んでいるというか、原作ありきで進んだわけではないきっかけでした」
役は自分の中から出てくるもの
Q.山崎さんが犯罪者の役というのが驚きではあったんですが、監督から役作りのお願いなどはされたのでしょうか。
篠原監督
「彼が役をやることによって、自然と役作りをしている状態なんです。山崎さんも「演じている人がプロじゃないから監督は何もしないんです」っていうんですが、何もしないのは当たり前です。やるのは山崎さんなので(笑)。だから指導というものはしません。自分が役をやる限りは自分の中からひねり出してくださいという感じで特には何もしていないんです。段々泥棒になってくれればいいやと思っていました。山崎さんって悪い人に見える表情をする瞬間があるんですよ。ちょっと怖いというか(笑)。普段自分の中にないものを出してくださいということは言ってないですが、山崎さんもそれはわかっていたんじゃないですかね」
Q.20年前と比べて山崎さんの演技は上手くなっていますか?
篠原監督
「山崎さんも何年か置きではありますが20年も映画には出演していますから。僕としても4本目です。短編の『けん玉』(Jam Filmsの一篇)と『グッド・バイ』(BUNGO-日本文学シネマ)。『グッド・バイ』では太宰治役なんですよ。上手くなって当然なんですよ(笑)」
Q.役者として山崎さんを起用する魅力は何ですか?
篠原監督
「自然にできるからじゃないですかね。『月とキャベツ』の時もミュージシャン役だったのでほぼ等身大の自分の役が出来たんです。あの時の花火という人は山崎まさよしとは違うから当然それは演じているわけですが、演じていても山崎くんという本性、山崎くんが持っているものが出てくるわけですよ。それはどんな役でもそうでもちろん演じているんですが、その役の何かが山崎くんのどこかと共鳴していないと出来ないわけで。今回はそういうことでいうと泥棒とはいえ、ある程度この役はターゲットを決めて家に侵入する、どこか自分の中で正義のためにやっているところがあるんです。侵入する家は政治関連の小役人で金をくすね取っているような人の家で、そこから金品を盗むということをしているわけですね。泥棒の技術は長年で身につけたものでそれで修一はやっているわけでこだわりを持った職人という言い方が出来るわけです。山崎さんもこだわりを持ったミュージシャン、ギタリスト、歌い手でもあるという本人と共通しているものを見出せると言っていまして、そこは自然体で出来るポイントだと思うんです。泥棒というかつて経験していない役だけど何か自分の中に通底するものが感じられる風に彼も僕もそう思っています。そこが頼りになってくるんです。本人が「やってやれないことはない」と言っているのはそういうことだと思います。現場でもミュージシャンとしてお客さんに見せる表情とは違う表情をしていました。意図的にそういう顔をしていたわけではなく、自然に出てきたんじゃないかと。どこかで本人も役者をやるというときに普段の自分にはないものになれるということに魅力を感じているんじゃないですかね。そうでないと役者をまたやってほしいと人間関係のお付き合いで頼まれたとしてもやらないと思うんです。『グッド・バイ』で太宰治をやった時だって、ある女に頼り切っていることは人間の持っている何かと共通出来るから自分と同一視できると思いますし、『けん玉』では女性と同棲していて売れないミュージシャンという設定で間抜けな男なんですけど、その間抜けさも山崎くん本人がこれはわかるなと思ったから演じたわけで、今回も泥棒という経験はないけど、これは自分なんじゃないかと感じたんだと思います。泥棒という行為ではなく、奇しくも捕まってしまったけれど自分を待っている女性がいることとか、なぜ自分は犯罪を繰り返すのかという理由、過去とかそういった所でしょうね」
キャスティングについて
Q.修一のことを慕う、北村匠海さん演じる啓二の存在もとても大きいですが、北村さんを起用した理由を教えてください
篠原監督
「僕は北村匠海さんという存在がずっと気になっていまして。啓二役には誰がいいかなという話になった時に僕は北村さんがいいんじゃないかと言っていました。他にも候補はいましたが、決定的になったのは去年、『花戦さ』という映画で日本アカデミー賞の授賞式に行っていまして、俳優新人賞を北村さんが受賞したんです。壇上に立っていた彼は明るくなくて。どことなく暗いんです。なんか日陰者のような感じがして。自分がそんなに目立とうとしないでいるというか。恥ずかしがりやな感じに僕は親近感を持っていいんじゃないかと思ったんです。それでオファーしました。」

Q.実際、北村さんの演技はどうでしたか?
篠原監督
「上手いですよね。まだ21歳なんですが成熟しているなと思いました」
Q.北村さんも音楽活動をされていて、竹原ピストルさんも出ていらっしゃって。ミュージシャンとしての何か関係性はあったんでしょうか。
篠原監督
「それは偶然です。北村匠海くんがDISH//というバンドをやっていることはオファーしてから知りました。本人は山崎まさよしくんのことを崇拝しているというか兄のように慕っているというか。リハーサルをしていてもうまく行きました。馬が合ったんでしょうね。最初の本読みの頃から自然に共鳴し合っていたと思います。竹原ピストルさんは山崎くんとはオフィスオーガスタという同じ事務所で仲間ですからお互いをよく知っていますし、竹原さんの方が「山さん、山さん」と言っていて、山崎くんが「おい、ピストル!」って呼んでいるわけで。そのピストルさんに山崎くんは胸倉を掴まれて「あいつ、痛えんだよ、青あざ出来てたよ」と後から言っていました。竹原ピストルさんの方も本気でやってくるので、見ていて面白かったですね」
Q.大竹しのぶさん、滝藤賢一さんのキャスティングの理由も教えていただきたいです。
篠原監督
「母親役は大竹しのぶさんしかいないという思いはありました。偶然『永遠の1/2』という映画で1987年に一緒に仕事をしていたので、大竹さんが覚えてくださっているかは別として、僕はぜひ出ていただきたいと思っていたわけです。大竹さんの方が山崎くんのファンなので共演は出来なくても同じ映画に出たいと言ってくださったとプロデューサーから聞きました。

滝藤さんは何人かいる40代の活躍する俳優の中の1人として自然と名前が出てくる方で、この人の顔も何か一癖二癖ありそうじゃないですか。尾野真千子さんとも横山秀夫さんの『クライマーズ・ハイ』で戦友のような関係だったと聞いていて、尾野さんを好きになる男としては面白いんじゃないかということもありました。陰のある雰囲気、どんな役でも嫌がらないという力量の持ち主じゃないかということでキャスティングしました。演技指導は僕はあまりしませんが場面によって「これ以上過剰にしないで」という指示は出しました。『影踏み』らしさというのは陰と陽の陰(影)になった人を大事にしていくというところもあるんです。尾野さんが演じる久子を介して修一側、次朗側の影踏みを描いている感じです。山崎くん、滝藤さん、北村くんが出てくるクライマックスシーンは影踏みらしいシーンであのワンカットに影踏みらしいものを集約しています」

Q.横山さんの作品を映像化するということで意識したことはありますか?
篠原監督
「横山さんと事前に話をしましたが、横山さんの作品は警察の組織について‟官から民”という描き方が多い中でこの作品は‟民から官”を見ている作品で特に民の底辺の泥棒から見た発想なんだそうです。横山さんは底辺とおっしゃいましたが底辺とは別に僕は思わなくて、修一にとって警察は自分を捕まえ続ける権力ですよね。悪質な手段を使って自分を捕まえようとするのは犯罪で捜査としては違法捜査なわけです。その違法捜査で逮捕されたから、ピストルさん演じる吉川は友達ですが、逮捕されたことには恨みは持っているわけで、なぜ捕まったのかそれを解明したくて始まったストーリーなんです。それなのに吉川は死んでしまう。一人の女を巡る複雑な人間関係の話になっていくあたりは難しかったですね。特に中村ゆりさん演じる葉子を巡る五、六角形というのは実はよくわからなくて。そこに修一も巻き込まれる格好で弁明しようとしている部分もあり、横山さんが作る人間関係は複雑なんです。それは作られたミステリーなわけですが、そこを描かないわけではなくて、リアリティを持って作っていきました」
Q.夜のシーン、昼のシーンで違いをつけた、工夫したなどはありますか?夜のシーンがあったからこそラストシーンの昼のシーンがすごく生きていたと思うのですが
篠原監督
「思い起こせばナイター撮影が多い現場でした。ラストシーンは晴れてくれてよかったなあと思いましたね。撮影の最後だったんです。前日に山崎くんと中尾さんのシーンを二日前の夜にやっていまして、結構徹夜に近くてヘロヘロになった状態で宿にたどり着き、翌日は余力で撮っていたんです。最後に中之条町で自転車のシーンを撮って。いよいよ翌日がラストということになったんですが、前日も晴れていたわけではなくてどんよりしている天気で。このまま行くのかなあと思っていたらカラッと晴れまして、それで撮れたんですよ。ラストシーンはあまり天気が良くなければ翌日に延期するという覚悟もしていたんです。陰と陽という点は観念として持っているものではあるんですが、何かしら起きるのは夜のシーン。あやしいことが起きるのは夜。修一や久子たちが心のよりどころにしているラストシーンのあの場所は作品の中では唯一太陽を受け止められる場所で、あとは暗部という風になっているかもしれませんね。後付けですが(笑)」

篠原哲雄監督
誰が誰の影を踏んでいるのか。自分とは離れることは出来ない影。光が当たって影ができる。自分は果たして光かそれとも影か。
孤高の泥棒が一つの事件を通して過去へと向き合っていく。
映画『影踏み』https://kagefumi-movie.jp/ は11月15日より全国公開(11月8日より群馬県先行公開)。
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