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映画『メモリードア』『三尺魂』がシネマスコーレで上映中 加藤悦生監督、木ノ本嶺浩さんインタビュー
加藤悦生監督の『メモリードア』、『三尺魂』が8月22日から名古屋シネマスコーレで上映されている。
この二作品は実はコロナ禍前に撮影されていた作品。7年以上前の作品だが、今観るべき作品だ。
シネマスコーレに舞台挨拶で来名した加藤悦生監督、俳優の木ノ本嶺浩さんにお話を伺った。
劇場公開までの道のり ―コロナ禍が生んだ「研ぎ澄まし」と自主配給
Q.『メモリードア』は愛知県大府市で開催されたおおぶ映画祭で2022年に上映されたと記憶しています。当初の撮影から7年、映画祭上映からも4年経っていますが、映画館での上映までに時間を要したのはなぜでしょうか。撮り直しもされたのでしょうか。
加藤悦生監督(以下 加藤監督):
「撮り直しをしたわけではないんですが、編集をかなり見直しました。映画祭で上映していた当初のバージョンは110分ほどあったのですが、コロナ禍でじっくり映画と向き合う時間ができたこともあり、シーンの入れ替えやカットを行って、約17、8分削ぎ落としたんです。要素や物語の本質は一切損なわずに、より展開が鋭く伝わる形に再構築しました」
Q.再編集版を観て木ノ本さんはどう思われましたか?
木ノ本嶺浩さん(以下 木ノ本さん):
「編集し直された完成版を見て、本当に観やすくなりましたし、テンポ感とシャープさが一段と増したと感じましたね」
加藤監督:
「編集に関しては、照明の古川さんが今日観てくれたんですが、おおぶ映画祭で観ていたので、今回の再編集版を観て「シーンの入れ方が変わっている」と言っていました。僕はかっこいい映画が作りたいんです。篠原哲雄監督からも「編集が鋭い」と言っていただけて嬉しかったですね。僕は映像専門学校で講師もやっているんですが、授業で生徒に「だらだら繋ぐな、切るところには法則がある」と教えていることそのものを自分で実践した形です(笑)。慌てて発表せず、巣ごもり期間にしっかりと作品を研ぎ澄ますことができたのは、結果として最高のかっこいい形に繋がったと思っています。その中で配給も自分でやることに決めまして」
Q.自主配給に切り替えたのはどうしてですか?
加藤監督:
「もちろん配給会社さんは、劇場への作品紹介や営業、宣伝など、さまざまな形で作品を届けるために動いてくださいます。ただ、毎年非常に多くの作品が公開される中で、特に僕たちのような小規模な作品は、通常の配給活動だけでは、なかなか劇場の方の目に留まるところまで届かないこともあります。
それなら、作品に対して一番強い思いを持っている自分自身が、もっと前に出て動くしかないと思ったんです。劇場へ直接3回ほど足を運んで熱意を伝えて、映画館の方にようやく観ていただくことができました。自分の手で観てもらうところまで引き上げないと、作品が人の目に留まらない状況なんです。自主配給を経験して、劇場の支配人やプロデューサーの苦労や視点もよく分かるようになりました」
創作の原点 ― 「条件の制約」から生まれる唯一無二の物語
Q.加藤監督の作品は、『三尺魂』の「一室の密室劇」や『メモリードア』の「若年性認知症のと青年の成長物語」など、非常に独特で引き込まれる設定が特徴的です。物語の着想はどこから生まれるのでしょうか?
加藤監督:
「実は、僕の作品づくりの原点はすべて「条件」なんです。予算がどれだけあるか、撮影期間がどれくらい取れるか。本当はホラー映画が大好きなのでホラーを撮りたい気持ちもあるんですが、ホラーはお金がかかるので(笑)。だから、限られた予算と環境という制約(条件)の中で、最善のものをどう作るかというプロデュース的な発想からスタートします」
木ノ本さん:
「加藤さんの着想の凄さは、長年テレビ業界で情報番組やバラエティなどを手がけてこられたバックボーンがあるからこそだと感じます。どうやって観客を引きつけるかというプロデュース脳と、そこから脚本に落とし込む創作脳のハイブリッドなんです。『三尺魂』の台本を最初に読んだ時は、「これは絶対に自分が演じたい!」と思いました。喜怒哀楽がすべて詰まっていて、演技の教科書のような素晴らしい本でした」
加藤監督
「脚本は脳内で芝居が展開されているものを文字に起こしている感じです。ファーストフード店などで書いているときに、その芝居を見ながら僕は泣いていたりして、店員の方に変な目で見られていることもあります」
木ノ本さん
「脚本を書いているときにお会いした時に足を引き摺っておられたことがあって。理由を聞いたら砂浜を走るシーンが思い浮かんで書けたことが嬉しくて、自分も走り出したら足元にあるものが見えていなくて思い切りぶつけたと(笑)」
加藤監督
「脳内にストーリーが降りてきたら集中して書いてしまうので、いろいろ見えなくなります(笑)」

【制作秘話】『三尺魂』の密室セットは「手作り」
映画『三尺魂』は自殺志願者4人が集まり、巨大花火で自殺しようとするが、時間が戻ってしまうワンシチュエーションタイムループ会話劇。インドネシアで商業映画としてリメイクされた。
『三尺魂』の舞台となる爆弾が仕掛けられた一室。実は加藤監督の実家の庭に、高校の先輩と一緒に手作りで建てた小屋だったという。
「撮影中に地震が来たらどうしようとドキドキしていました(笑)」(加藤監督)。
この現場で8日間で撮影された『三尺魂』はカメラを様々な方向から同時には撮れないため、同じシーンを何回も繰り返して撮影し、編集している。過酷な条件と手作りの現場から、圧倒的な緊張感が生まれた。

シネマスコーレの手書きの告知の横で撮影する木ノ本嶺浩さん
Q.『メモリードア』では、認知症や年の差恋愛という外面的なテーマの奥に、主人公・和也の人間的な成長と熱量が描かれていますね。
加藤監督:
「僕は昭和の人間なので、今の若い人たちの「悟ったような冷めた感じ」に対して、「もっと熱くなれよ!」という気持ちがどこかにあるんです。主人公の和也が、いろんな強い女性たちに揉まれ、ガンガン言われながら気づいていく物語を描きたかった。単なる分かりやすい成長劇にすると他の映画と同じになってしまうので、「加藤が描くとこうなる」という歪みやリアルな熱量を提示したかったんです」
圧巻のベテラン俳優陣とアドリブが生む「天国のような現場」
Q.キャスティングはオーディションでしたか?
加藤監督
「オーディションではなくて、過去作品出演者や知り合いに出演の打診をしました」
Q.木ノ本さんは加藤監督作品にどういうきっかけで、出演されたんですか?
木ノ本さん
「『三尺魂』の時に台本を読んだ津田(寛治)さんが、「木ノ本にぴったりな役がある」と言ってくださったのがきっかけで、出演しまして、『メモリードア』もお声掛けいただきました」
Q.『メモリードア』の中に登場する認知症カフェのシーンが非常に素晴らしく、そこに生きている人々の空気感や日常の味わいに深く魅了されました。あの絶妙な雰囲気はどのように作られたのでしょうか?
加藤監督:
「あそこにいる皆さんは、俳優座、文化座、青年座等の劇団で長年活躍されてきた超ベテランの俳優さんたちなんです。僕はあそこを「天国」というイメージで演出しました。認知症になっても愛らしく、自由に好きなことを言える開放的な空間で過ごしてほしかった」
木ノ本さん:
「あの空間は本当にすごかったですね。演劇をずっと人生の一部として支えてこられた大先輩方の立ち姿と演技の安定感が圧倒的で。現場で僕が演じる和也として芝居するというより、皆さんが発する言葉にただただ影響を受け、応えて、引っ張ってもらった感覚でした」
加藤監督:
「実は本読みの段階から「自分の人生経験をふまえて、台本をベースにアドリブを入れて喋ってください」と伝えていた方もいました。そうしたら、のりこ役の有賀(ひろみ)さんが人生観を語る場面で、じゅんこ役の五味(多恵子)さんが感極まって泣き出してしまって。横にいたせいじ役の(小金井)宣夫さんが「泣いちゃったよ(笑)」と笑うのも台本にないアドリブ。たけし役の伊藤(勉)さんはいつも芝居が変わったりしましたが、撮影監督の八重樫(肇春)さんもリハーサルでそれを完璧に覚えてくださって、本番で待ち構え、見事なカメラワークで収めてくれました。現場のチームワークが生んだ奇跡のようなシーンです」

Q.『メモリードア』を観た方からはどんな反応がありましたか?
木ノ本さん:
「高知県黒潮町での上映後、実際に親の介護を経験された方や、孤独な葛藤を抱えていた方から凄まじい熱量の体験談を直接伺いました。一方で、都内の上映では「和也の曖昧さにイライラした」といった若者視点の感想も多かったです。上映する地域や観客の世代によって、刺さるポイントが全く異なるのがこの映画の面白さだと感じています」
Q.和也のようにどこか自信が持てず、周囲との距離感や現代社会の息苦しさに悩む若者は多いと感じます。加藤監督は専門学校で教えている学生たちとも重なる部分はありますか?
加藤監督:
「すごく重なりますね。今の若者は表情が読みづらかったり、否定されるのを恐れて自分を抑えてしまいがちです。でも、放課後にこっそり部屋に来て観た作品の感想や熱い創作の想いを打ち明けてくれたりする。内面には強い情熱や欲求があるんです。社会で働く中での人間関係や葛藤、迷いも含めて、そうした「生の悩み」を受け止め、一歩踏み出す勇気を与えられるのが映画の力であり、役割なのかなと思っています」

左:木ノ本嶺浩さん 右:加藤悦生監督
『メモリードア』では人を愛することで成長する青年の姿、『三尺魂』では死にかけていた心が動いていく4人の姿が非常に印象的に映る。加藤監督の脳内の映像を役者達が体現しながら演じる『メモリードア』、『三尺魂』は現在名古屋シネマスコーレで上映中。
『メモリードア』を24日、26日、28日に『三尺魂』を25日、27日に上映する(上映時間は毎回10時40分から) 。連日上映後舞台挨拶が予定されている。
【作品情報】
『メモリードア』
https://otona110ban.com/memorydoor/
監督・脚本: 加藤悦生
出演: 木ノ本嶺浩 辻しのぶ
小林萌夏 モロ師岡 南久松真奈 小谷佳加
辻夏樹 碧海舞音 小宮孝泰 佐伯日菜子
愛した人は年上、バツイチ、認知症。
好きになった人の病をきっかけに、自身の意志で動き始めた青年の姿を描く。
『三尺魂』
監督・脚本: 加藤悦生
出演: 村上穂乃佳、木ノ本嶺浩、辻しのぶ、津田寛治
自殺サイトで集まった4人の男女と巨大花火。密室で繰り広げられる怒涛のタイムループ・シチュエーション劇。海外でもリメイクされた傑作。

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