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沖縄返還の交渉を行った一人の外交員の物語 (映画『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』)

昨年NHKBSプレミアムで放映されたドラマが映画になって帰ってきた。
沖縄返還の裏で活躍した一人の外交官の物語
『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』

隠されていた事実とある男の活躍

2010年外務省の密約問題調査により外務省でそれまで隠されていた1972年の沖縄返還当時の外交資料がほぼ全て公開され、対米交渉・対沖縄折衝の両面で一人の外交官が大きな役割を担ったことが初めて判明した。その外交官の名は千葉一夫。"鬼の千葉なくして沖縄返還なし"と称された伝説の外交官だ。その伝説の外交官の功績がなぜ今まで隠されてきたのか。この作品では千葉の返還交渉と同時に当時の日本政府とアメリカとのもうひとつの密約があったことも描かれていく。

沖縄を日本へ。動き出した民衆の運動と国の思惑

アメリカから日本に戻りたいという思いは沖縄の民衆の中で膨れ上がっていた。戦時中から海軍通信士官として無線傍受の任務にあたり沖縄の惨状を知っていた千葉一夫は戦後、外交官になって沖縄返還を目指す。沖縄政府との対話、アメリカとの交渉が千葉の手で進む一方、日本本土を守るための密約が日本政府とアメリカの間で結ばれる。沖縄も日本ではないか。なぜ沖縄だけが犠牲にならなければいけないのか。沖縄の人と腹を割って話し合い、沖縄を知りはじめた千葉の中に日本政府への怒りも募ってゆく。

 

ドキュメンタリーの現場からのラブコール

監督はNHKのドラマ番組部ディレクターである柳川強。NHKで戦争関連の作品を5本演出している。『鬼太郎が見た玉砕~水木しげるの戦争~』(2007)は放送文化基金賞やギャラクシー賞を受賞しているがその時のスタッフである脚本の西岡琢也、音楽の大友良英が再集結し、この作品は制作されている。

作品制作のきっかけは2015年、柳川監督は会ったことのないNHK報道番組ディレクターの宮川徹志から調査は自分達がやるからある人物を題材にドラマを作ってくれないかとメールを貰う。ドラマ制作と報道制作。同じテレビ局内でも制作部門が違うと全く接点がないというNHKの中で宮川と西脇順一郎プロデューサーから千葉一夫という一人の外交官の話を聞いて自分達が作るドキュメンタリーではなく敢えてドラマ性を持たせて一人の男を描きたいと思った二人の熱意に心打たれ、実話ベースのドラマ制作が始まった。2年を費やして準備され、昨年2017年8月にNHKBSプレミアムでオンエアされたが、時間の制約にとらわれず100分に再編集されたディレクターズカット版が劇場公開されることになった。

4Kが実現させた昔の映像のリアル感

千葉が実際に沖縄で見たB52戦闘機をどうしてもカラーで表現したかったため、当時撮影された映像を4K技術を駆使してカラーに変換し、作品の中に取り入れた。それに合わせるために全編4Kカメラで撮影する手法をとっており、戦闘機が飛行する部分だけが古い映像とはわからない出来上がりになっている。

怒りを溜めて突き進む男

千葉一夫を演じるのは井浦新。演技派、カメレオン俳優として評価されている彼だが、どの役についても感じるのは彼の芝居の根底にある貫かれる信念だ。演じている間は演じる役の人物として生きる。妥協がない。沖縄に行って千葉の日本への怒りを感じたという柳川監督の思いを受け取り、今回も千葉一夫の信念、日本への怒りを彼の芝居がしっかりと伝えてくれる。柳川監督はドラマ『最後の戦犯』、『コントレール~罪と恋~』で井浦さんとタッグを組んだ。『コントレール~罪と恋~』では目の前で起きた無差別殺人の被害者を助けられなかった男の役だった井浦さんが「自分ならすぐ助けに言っていた」と話していたことから井浦さんの人間性も信じて柳川監督はオファーしている。オファーを受けた井浦さんは撮影前に自らも沖縄を訪ね、千葉が歩いた場所に行き自分でその場所を感じて役作りを行った。千葉の上司役には大杉漣、佐野史郎、尾美としのり、琉球政府行政首席には石橋蓮司と演技派が揃う。

千葉の妻・惠子役には戸田菜穂。留学生として千葉と共にアメリカに渡り、帰国後は妻として冷静に夫を見つめ励まし続けた惠子をしっかりと演じている。鬼の千葉が鎧を脱いで、弱みを唯一見せることができる家庭の部分も注目だ。

 

必ず沖縄を取り戻す。何があっても諦めない。なぜ千葉一夫という人物は沖縄返還に全身全霊をかけることができたのか。沖縄の返還交渉の最前線で動いた千葉一夫とその家族を中心に沖縄の"終わらない戦後"を描く。

映画『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』

http://www.henkan-movie.com/

現在東京、沖縄で公開中(沖縄は8月末まで上映予定)。
愛知 名演小劇場では7月21日より公開。

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