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59歳、エンツォ・フェラーリの正念場(映画『フェラーリ』)
F1レースでも有名なイタリアの自動車メーカー・フェラーリは世界中で愛されている。フェラーリは元レーサーにして、カーデザイナーであるエンツォ・フェラーリが立ち上げ、イタリア屈指の自動車メーカーへと成長させた。しかしエンツォ・フェラーリは稀代の経営者でありながら、1988年に90歳で亡くなるまでその私生活は謎に包まれ、今も様々な噂が絶えない。
7月5日(金)公開の映画『フェラーリ』は、1957年59歳のエンツォの1年を描く。車に情熱を捧げた男が過ごした波乱と激動の時間はどんなものだったのだろうか。
あらすじ
難病を抱えた愛息ディーノを前年に亡くし、エンツォとフェラーリ社の共同経営者でもある妻ラウラとの夫婦生活は冷え切っていた。さらに、秘かに愛し合っていた女性リナとその息子ピエロとの二重生活は、思いがけずラウラの知るところに。二人の女との愛憎と婚外子の認知問題に加え、業績不振により破産寸前のフェラーリ社は、競合他社からの買収の危機に瀕していた。私生活と会社経営で窮地に立たされたエンツォは全てを投げうって、イタリア全土1000マイル縦断の公道レース・ミッレミリアに挑戦し、起死回生を狙う。
構想30年の超大作はインディペンデント映画
『フェラーリ』は構想30年に及ぶ執念の企画だ。この作品、驚くのはハリウッド・メジャーの製作ではなくインディペンデント作品ということ。製作・監督はロバート・デ・ニーロとアル・パチーノの初共演が大きな話題を集めた『ヒート』、オスカー候補となった『インサイダー』などの巨匠マイケル・マン。1991年に原作が出版された際、シドニー・ポラック監督と脚本のトロイ・ケネディ・マーティンの3人で映画化を目指したが、当時は叶わずマン監督以外の二人はこの世を去ってしまった。マイケル・マン監督は、ハリウッド・メジャー各社があまりの規模の大きさに恐れをなす中で世界中から出資者を集め、破格のインディペンデント超大作を完成させた。
30年待ったことにより、実現したこともある。レースの様子を再現するために、当時のフェラーリオリジナルカーを使うわけにはいかない。数台選んで3Dスキャンし、新たに撮影用の車を製作したのだ。
インディペンデント作品だからこそできた豪華なキャスティングも魅力的だ。エンツォ・フェラーリを演じるのはアダム・ドライバー。エンツォはレースには狂気を感じる熱さで入れ込み、ビジネスでも圧倒的経営者の威厳を見せながらライバル会社と競うが、二人の女性の間では仕事では見せない優しさや不器用さも見せる。アダム・ドライバーが演じたエンツォは多角的であり、人間として魅力のある男だ。アダム・ドライバーは今作では製作総指揮も担当し、映画製作すべてに情熱を注ぎこんだ。エンツォに関わる二人の女性、妻ラウラにはペネロペ・クルス、愛人リナにはシャイリーン・ウッドリーが起用された。ラウラは愛息ディーノを失い、エンツォを責め、夫婦としては冷えきった関係だが、息子を失ったという気持ちを分かち合える同志のような存在として、離れることも出来ずにいた。しかし、エンツォに愛人だけではなく、息子がいると知った時からエンツォへの態度が変化していく。夫婦だからこその愛憎がそこにあり、見事にラウラの気持ちを表現したペネロペ・クルスの演技にも注目してほしい。
エンツォが一代で築きあげたフェラーリの栄光やイタリアの中を走るミッレミリアを再現し、マセラティと争う大迫力のレースシーンだけでフェラーリを語ることも出来ただろう。しかし、敢えて斜陽期のフェラーリと問題山積みのエンツォのプライベート部分にスポットを当てたことで、一人の男が何を得て成功し、成功の裏で何を失ったのか、成功者が持つとてつもない光と影を知ることができるだろう。
映画『フェラーリ』 https://www.ferrari-movie.jp/ は7月5日(金) よりTOHO シネマズ 日比谷ほかで全国ロードショー。東海三県では109シネマズ(名古屋、四日市)、イオンシネマ(大高、名古屋茶屋、ワンダー、岡崎、豊川、豊田KiTARA、長久手、常滑、各務原、津、津南、桑名、鈴鹿、東員)、コロナシネマワールド(中川、安城、豊川)、ミッドランドスクエアシネマ、伏見ミリオン座、ユナイテッド・シネマ(豊橋18、岡崎、稲沢、阿久比)、TOHOシネマズ(木曽川、赤池、赤池東浦、津島、岐阜、モレラ岐阜)で公開。
配給:キノフィルムズ
監督:マイケル・マン(『ヒート』)
脚本:トロイ・ケネディ・マーティン
原作:ブロック・イェイツ著「エンツォ・フェラーリ 跳ね馬の肖像」
出演:アダム・ドライバー、ペネロペ・クルス、シャイリーン・ウッドリー、パトリック・デンプシー
2023年|アメリカ|英語・イタリア語|カラー・モノクロ|スコープサイズ|原題:FERRARI|字幕翻訳:松崎広幸|PG12
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