極寒の会津ロケからベルリン映画祭出品へ! 魂の舞と幽玄の世界が描き出す人間の複雑な心境(映画『BONJI INFINITY』初号試写会 舞台挨拶レポート )
2025年11月3日、映画『BONJI INFINITY(ボンジ インフィニティ)』の初号試写会が2025年11月3日、名古屋ミッドランドスクエアシネマ2で開催された。
映画『BONJI INFINITY』は、日本の古典怪談「耳なし芳一」をベースとした物語。盲目の琵琶奏者・芳一は、その音楽を通じて霊を成仏させる力を持っている。しかし、ある日、彼の前に平家の落武者の亡霊たちが現れ、芳一は彼らの魂を鎮めるため、琵琶を奏でながら壮絶な戦いに挑む。
浮辺奈生子監督が幼少期に「日本昔ばなし」から感じた悪いことをすれば、必ず自分に返ってくるという教訓をベースにしているこの作品は、「人間が見たくないけれど、本当は見たいもの」や心の中にある「念や恨みの気持ち」といった、人の深層心理を描くことを追求している。ストーリーで訴えるのではなく、観る者の感覚に強く訴えかける「目に残る映画」という現代に相反した映画を作るために無声映画という形式を用いている。
『BONJI INFINITY』クラウドファンディングサイトはこちらから
上映後に舞台挨拶が行われた。浮辺奈生子監督、キャストが登壇した舞台挨拶レポートをお届けする。
(司会:松岡ひとみさん)
Q.大きなスクリーンで観た感想を一言お願いいたします。
西川千雅さん(芳一の面倒を見ていた僧侶役)
「大スクリーンでの上映で、本当に音も迫力がありまして、作品に関わっていながらも他の誰かが作った映画という感じで楽しんでしまいました」

西川千雅さん
伊藤天馬さん(芳一の面倒を見ていた僧侶の若い時 役)
「出演は一瞬だったんですが、スタッフとして全日お手伝いさせていただいたので、すごく感慨深い作品です。大スクリーンで見られてよかったです」

伊藤天馬さん
中野春風さん(女中役、ヘアメイク助手)
「監督が見られている世界観を、この映像を通して共有でき、本当に嬉しいです。この作品が一人でも多くの方に見ていただけると嬉しいです」

中野春風さん
藤夏ゆかりさん(芳一の母 役)
「ワンシーンのみの出演だったんですけれども、こんなすごい映像になっているんだなと今日初めて拝見して驚きました」

藤夏ゆかりさん
浮辺奈生子監督
「悪天候のロケ4日間、会津若松で雪と雨、そして3℃ぐらいの中での撮影だったので、感無量でございます」

浮辺奈生子監督
一言挨拶の後は映画にまつわる裏話や制作の意図が語られた。
ロケ現場での出来事
映画の撮影は、12月の会津若松で、気温3度ほどの極寒の中で行われた。当時の過酷な状況を振り返った。伊藤天馬さんは「出演者の方は裸足で、僕たちは傘を差したりして、少しでも寒さを防ごうとしていましたが、雪とか雨がいい感じの映像になっていたので、それはそれで、すごいいいタイミングだったんじゃないか」と、厳しい環境が作品のトーンに繋がったと前向きに語りました。心温まるエピソードとして、芳一の母役を演じた藤夏ゆかりさんが赤子を置いていくシーンについて、「子どもはいないが、猫を飼っているので、その猫を置いていくことを考えると、ちょっと耐えられないと話したところ、浮辺監督が音は撮っていないので、私の演技をサポートするために終始悲しそうな猫の鳴き真似をし続けてくださいました」と語った。
大駱駝艦さんについて
本作の重要な要素である振付は、大駱駝艦の村松卓矢さんが担当した。浮辺監督は、村松さんの持つ「体によって、表現をする力」に強いリスペクトを示し、「私がこの作品で一番重んじているのは、人間の複雑な心境や生き様です。それが霊になってもあって、複雑なものがたくさんあるというテーマを表現する上で、大駱駝艦さんの表現にすごく助けていただいている部分が多く、私の映画にはなくてはならない存在です」と感謝と信頼を語った。
主演の阿佐辰美さんからのコメント
主演で芳一役を演じた阿佐辰美さんは、現在撮影中のため参加できなかったが、ビデオメッセージが上映された。阿佐さんは「撮影がものすごく寒い中、皆さん過酷だったはずなんですけれども、すごく楽しく和気あいあいとできたのを今でも鮮明に覚えています」と現場の温かい雰囲気を伝えた。また、「モノクロ撮影で、琵琶の演奏があって録音をしないという、僕自身あまり経験したことのないような撮影方法だったので、浮辺監督がこれをどう完成に持っていくのかがすごく楽しみ」と、完成への期待を述べました。浮辺監督からは、阿佐さんが琵琶を弾くために約半年間稽古をしたことなど阿佐さんの役作りの様子が語られた。撮影時には実際に阿佐さんが琵琶を弾いている。(完成版は友吉鶴心さん)
ベルリン映画祭に出品
本作は、世界的な映画祭であるベルリン国際映画祭に英語版を提出したことが報告された。浮辺監督は「ベルリン国際映画祭には「実験的映画に対する部門があったり、長編の新人賞があったため出品した」と意図を説明。今後は、オランダのロッテルダム国際映画祭にも出品を予定しており、海外での評価獲得に意欲を見せた。
最後に浮辺監督は、「たくさんの方にご協賛をいただき、たくさんの方のお力をお借りして、素晴らしい64分の映像ができました。本当にありがとうございました。海外の映画祭にも出させていただき、評価を得て、日本でいつの日か配給していただけるよう働きかけをしていきます。これからも映画を撮って行きたいと思います」と、今後の抱負を力強く語った。
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