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諜報員、大統領候補の生活を盗聴する(映画『偽りの隣人~ある諜報員の告白』)
日本では昨今韓国の文化が人気だ。ファッション、グルメ、アイドル、ドラマが日本のトレンドになる。映画界も『パラサイト 半地下の家族』がカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞してから一気に勢いを増し、精力的な映画制作が続いている。その韓国映画界から1980年代後半の大統領選の裏側にある駆け引きを描いた『偽りの隣人~ある諜報員の告白』が新たに公開される。
あらすじ
1985年、国家による弾圧が激しさを増す中、次期大統領選に出馬するため帰国した野党政治家イ・ウィシクは空港に到着するなり国家安全政策部により拉致され、自宅軟禁を余儀なくされた。諜報機関はウィシクを監視するため、当時左遷されていたユ・デグォンを監視チームのリーダーに抜擢。
デグォンはウィシクの隣家に住み込み、24時間体制の監視任務に就くことになった。機密情報を入手するため仕掛けた盗聴器から様子を覗うデグォンだったが、家族を愛し、国民の平和と平等を真に願うウィシクの声を聞き続けるうちに、上層部に疑問を持ち始める。そんな矢先、ウィシクとその家族に命の危険が迫り…。

<諜報員の告白>という副題もあり、もっと全編が緊迫していて、告白している場面があるのかと思ったら違った。冒頭から軽妙な音楽と共に、笑いもあるストーリーが始まる。
1970年代から80年代にかけて韓国で起こった軍事独裁政権と民主化運動の対立をモチーフにした社会派のドラマだが、『タクシー運転手 約束は海を越えて』とは違うアングルの描き方になっていて、民主化運動に身を置く人側ではなく、民主化運動を阻止しようとする側に属し、生きるために命令に従って暗躍している男達が描かれる。笑いある展開は中盤まで続く。盗聴相手である大統領候補と顔を合わせてしまい、家に招かれ、軟禁状態の大統領候補を銭湯に連れ出す展開や、部下とのやりとり、人気曲が暗号なのではないかと勘違いされて放送禁止になる展開はクスっと笑えてしまう。
大統領候補イ・ウィシクの暗殺が政府上層部から計画されたことで、映画の雰囲気は一変。イ・ウィシクの人柄を知った主人公ユ・デグォンが上層部からの指示に疑問を持ち、行動する展開は前半のコミカルなシーンや、イ・ウィシクとの交流シーンが相乗効果を生み、目が離せなくなっていく。そこに遠慮ないカーアクションも加わり、韓国映画のダイナミック感に心が揺さぶられる。
『偽りの隣人~ある諜報員の告白』は日本でも大ヒットした『7番房の奇跡』のイ・ファンギョン監督による最新作だ。2020年12月の韓国公開時には初登場1位を獲得した。アメリカから帰国して、軟禁される民主化運動活動家と言えばイメージする韓国の大統領がいるが、イ・ファンギョン監督自身は物語はフィクションで、特定の政治家をモデルにしたものではないと語っている。

演技派が揃う役者陣
国家に忠誠を誓い、家族にも極秘で国家安全政策部の諜報員として身を粉にするデグォンにはドラマ『応答せよ1994』で大ブレークし、『レッド・ファミリー』では仲良し家族になり切る北朝鮮のスパイを演じ、ある殺人事件を映画化した『善惡の刃』で弁護士を演じたチョン・ウ。とにかく熱血で、家族を支えるために一心に働く男。上層部にウィスクとの関係が知られてもうまく乗り切る器用さも持っている。やわらかな笑顔で信念を貫き、圧政に耐える国民を思い続ける政治家ウィスクには、『国際市場で遭いましょう』や『プロミス 氷上の女神たち』で活躍する韓国の名優オ・ダルス。家の中で家族を思い、友達を欲しがる穏やかな顔から様々な危険も顧みず、立候補を宣言する強い眼差しを持つ顔への変化が見事だ。個人的に注目したいのはデグォンの部下役のキム・ピョンチョル。大ヒットドラマ「SKYキャッスル~上流階級の妻たち~」の野心的すぎる法学教授役、「太陽の末裔 Under In The Sun」の隊長役など、脇で印象を残す役者で、今回もしっかり笑いの部分でも、仕事の部分でも文字通り部下としてデグォンについていい芝居をしてくれる。
1987年まで韓国では民主化運動へ政府の強い弾圧が行われ、多くの犠牲者が出た。それを自身の目で見てきた監督が、フィクションながらリアルにあの時代を表現する。何が民主化を遅らせたのか。この映画を通してまた韓国の歴史を知ることが出来るだろう。
国民が大統領を選ぶ韓国。大統領選は約半年後だ。国民が選ぶこれからのリーダーは誰になるのだろうか。
『偽りの隣人~ある諜報員の告白』https://itsuwari-rinjin.com/ は9/17よりシネマート新宿、シネマート心斎橋他で全国順次公開。
9/24日より愛知・名演小劇場で公開。
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