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【インタビュー】「解像度を上げる」ことから始める映画制作 ―映画『ナギダイアリー』深田晃司監督が語る、「地方」を知り映画を撮るということ(映画『ナギダイアリー』)
映画『淵に立つ』『本気のしるし』『LOVE LIFE』などで国内外から高い評価を受ける深田晃司監督。最新作『ナギダイアリー』では、架空の町「ナギ」を舞台に、過疎化や家父長制、セクシャルマイノリティ、防衛施設(自衛隊)を抱える地方都市のリアルな空気感を鮮明に描き出している。いかにしてこの豊かで繊細な物語は紡がれたのか。名古屋でお話を伺った。
地方の町の暮らしを描く「責任」と、10か月に及ぶ現地取材
Q.元夫の姉を訪ねるという一見不思議なシチュエーションから始まりながらも、馴染んでいく。淡々とした日常を描きながらもどんどん登場人物達に共感が深まっていきます。どのように脚本や世界観を構築していかれたのでしょうか?
深田晃司監督(以下、深田監督):
「作っている最中は彫刻の粘土を捏ねているような感覚で必死なので、「どうやって作ったのか」と聞かれると自分でも不思議なのですが、今回に関して言えば、自分自身が東京生まれ東京育ちであるという事実が大きかったと思います。自分にとってアウェイの場所やテーマを描くとき、そこにはどうしても自分自身の思い込みや偏見、先入観が入ってしまう。それは誰しも避けられないことだからこそ、それを自覚してきちんと現地取材を重ねていこうと考えました。約9年間、現地(岡山県奈義町)に通い、滞在もしながら、奈義町に住む中学生や独身の女性、既婚の女性など、一人ひとりから丁寧に話を聞いていきました。そうした取材で得た言葉や気づきを、ひとつひとつ脚本に盛り込んでいきました」

深田晃司監督
Q.作中で登場人物が口にする家父長制や先祖代々のお墓をめぐる現実的なセリフも、取材から生まれたものなのですか。
深田監督:
「まさにそうです。奈義町出身の独身女性を取材したときに「昔、実際に周りから言われた」という言葉を、そのまま使わせてもらったりしています。地方都市で映画を作ろうと考えた時点で、家父長制というテーマにはどうしても大なり小なり向き合わざるを得ないと思っていました。そうした強烈な家父長制の影響下で、独身女性が1人で生き続けていると、周りから偏見の目で見られることもある。そういう現実にいまだある状況も踏まえて想像を膨らませていきました」
Q.地方に住んでいる者(筆者)が観ると、非常に「田舎あるある」な台詞がたくさんあります。現地の方の声を聞きながら深田監督が感じた都会と地方の違いを脚本に反映した部分もあるんですね。
深田監督:
「映画制作に限らず、絵を描くことでも同じだと思うのですが、描く対象(モチーフ)と向き合うことで世界の解像度が上がっていく感覚があります。よく例え話で言うのですが、道端に咲いている花は普段は見過ごしていますよね。でも「この花を描こう」と思ってスケッチブックと筆を手にしたときから、その花の詳細がより良く見えてくる。それと同じで、映画を作るために現地に通い、取材を重ねる中で、それまで知識としてしか知らなかったその土地の解像度が次第に上がっていったんです。例えば、現地の中学生の男の子に「将来何になりたい?」と尋ねた際、「僕は長男だから家を継がなきゃいけない。そんなに自由に選べません」とごく当たり前のように返されて、すごく衝撃を受けました。中学生の段階で既にある種の家父長制の中に生きていることを自覚し、内面化している。でも、それは「良い・悪い」という単純な話ではないんです。例えば家に農地や畑があれば、それを誰かが手入れをしなくなれば草が生い茂って虫が湧いたり、そこに鹿や熊が下りてきて近所に迷惑がかかってしまう。都会の人間が「じゃあ畑なんて売ればいいじゃん」「手放せばいいじゃん」と言うのは簡単ですが、そんな単純な話ではないという地域の切実な事情がある。取材を通して、そうした現実を深く実感することができました」
プロパガンダを排除した「中立的な視線」
Q.映画の中では非常に中立的な視点が徹底されていると感じました。
深田監督:
世界をどう見るかという視点は表現にとって重要なので、それは中立ともまた違うとは思うのですが。ただ、都会の人間が地方を描くと、理想郷のような「癒される田舎のスローライフ」か、あるいは「ものすごく閉鎖的で排他的な村社会」という両極端なイメージに偏りがちなのですが、実際の生活はその中間にあります。プラスもマイナスもいろいろな要素が絡み合って存在している。だからこそ、どちらかに偏らないよう慎重に描く必要がありました。そしてもうひとつ、自分の中で「作品をプロパガンダにしたくない」という強い思いがあります。映像というのは没入感が非常に強く、観客を感情的に巻き込む力が高いメディアです。だからこそ戦前から政治やプロパガンダに利用されてきた歴史がある。映画を作る人間として、プロパガンダ性を忌避し距離を取るためにどうすべきかということは大前提として考えています。そのために、映画を観た観客一人ひとりが、自分の人生や経験、価値観を反映させて自由に考えられるような作品にしたかったんです」

Q.「地方」と「都会」の距離感が、自衛隊の駐屯地の存在の描き方にも表れていますね。砲声や無線放送を日常生活の描写として取り入れた訳は?
深田監督:
「今回の映画のモデルとなった奈義町には駐屯地があり、訓練のある日は朝から夕方まで砲撃音が響いています。東京では聞こえない音なので最初は驚くのですが、町の人にとってはそれが日常になっている。そこで「なぜ東京では聞こえないのか」と考える。それは本来は地続きなわけですが、東京と奈義町は距離があるからたまたま聞こえないに過ぎません。日本の国防や生活のために、地方の特定の地域が施設を受け入れているわけです。これは原発や米軍施設、電力供給の問題とも同様の構造ですよね。また、駐屯地があることで国の交付金が得られ、道路が綺麗に整備されたり、立派な美術館が建てられたりしている一面もある。でもその交付金や施設にコミュニティが依存し始めた時の危うさも存在する。都市と地方の関係やその構造について、一方的な批判や賛美をするのではなく、問いとして提示できればと考えていました」
若手キャストの奇跡的な演技と、松たか子がもたらした絶妙なバランス
Q.劇中、繊細な感情を抱える少年たち(春樹と圭太)の演技が素晴らしく、引き込まれました。かなり難度の高い役どころだったと思いますが、どのように指導されたのでしょうか?
深田監督:
「自分は「俳優と映画監督の関係は生徒と先生ではない」と思っているので、現場での特別な指導というものはしていません。オーディションで役にぴったり合う俳優を選ぶ、そこに尽きます。オーディションには本当にたくさんの方が受けに来てくれたのですが、春樹役の川口和空くんと圭太役の藤原聖くんは来た瞬間、「この2人だ」と確信しました。最終オーディションで実際に芝居をしてもらったのですが、自分は普段映画を観てもめったに泣かない人間なのに、オーディション段階で泣きそうになるほど芝居が凄まじかった。「この映画、上手くいきそうだな」と手応えを感じた瞬間でした。彼らが持っている感性と瑞々しさが、そのまま役にフィットしたのだと思います。今回は座組全体に加えてお二人には個別でもLGBTQ+に関する研修を受けていただいた上で撮影に臨んでいるので、その部分も理解してくれていると思います」
Q.主役の寄子を演じた松たか子さんの存在感も抜群でした。孤独や傷を抱えたキャラクターでありながら、絶妙な軽やかさがありました。
深田監督:
「脚本を書き終えてオファーを検討していた際、松さんの過去の作品を見ていて「素敵なコメディエンヌ」という印象がありました。寄子というキャラクターはいわば、地方に生きるレズビアンとして痛みも抱えながら、周りから「なぜあの人は独身なんだろう」という目で見られながら孤独に生きている女性です。解釈によっては過剰に暗く陰惨な役になってしまう危険性がありました。でも松さんなら、その重さをいい感じにほぐして、ほどよく温かみや魅力を与えてくれるという予感があったんです。結果として本当に絶妙なバランスで演じていただけました」
架空の町「ナギ」としての撮影、今後の映画制作への影響
Q.撮影はほぼオールロケですか?
深田監督:
「作品の99%は奈義町で撮影しているのですが、1%だけ違う場所があります。それが無人駅です。実は奈義の町には鉄道が通っていないのですが、あえて隣町の駅をお借りして撮影しました。この映画で描かれる家父長制のプレッシャーやセクシャルマイノリティの抱える生きづらさ、防衛施設の問題などは、特定の町固有の問題ではなく、日本のどの地方都市や海外でも起こりうる普遍性の高い構造です。だからこそ土地の固有性から一旦は距離を置くためにも「これはあくまで架空の町・ナギの物語ですよ」と明示するためにも、あえて奈義町には存在しえない駅の場面を組み込みました」
Q.土地そのものをモチーフとしてスタートし、深くその土地に関わった今回の制作体験は、今後の監督の映画作りにも変化をもたらしそうでしょうか?
深田監督:
「影響はあると思います。取材を重ねてモチーフと向き合うことで、映画がいかに豊かになるかということを心から実感できました。今回の経験を経て、「どこまでやるべきか」という自分なりの基準が見えてきましたし、今後の映画作りに活かしたいと感じています。これから国内外で公開されて、都市や地方、さまざまな場所に住む観客からどんな感想が届くのか、ドキドキしながらも非常に楽しみにしています」

架空の町・ナギ。日本の様々な地方の風景や慣習がそこにはある。
都会からやって来た人との出会いがその町で生きる人達に変化を起こす姿が繊細に捉えられている。
映画『ナギダイアリー』 https://starsands.com/nagidiary/ は9月25日(金)より全国公開。
東海三県では9月25日(金)より伏見ミリオン座、ミッドランドスクエアシネマ、コロナシネマワールド(安城、小牧、豊川、大垣)、イオンシネマ(岡崎、長久手、桑名)、ユナイテッド・シネマ(豊橋18、稲沢、阿久比)、ミッドランドシネマ名古屋空港、MOVIX三好、岐阜CINEXより、伊勢進富座で10月16日(金)より公開。9月25日(金)には伏見ミリオン座で深田晃司監督の舞台挨拶も開催される。
舞台挨拶情報
日時:9月25日(金)18:40の回 上映後
場所:伏見ミリオン座
ゲスト:深田晃司監督
(舞台挨拶、サイン会を予定)

© 2026 ナギダイアリー・パートナーズ (スターサンズ/⼋朔ラボ/ワンダーストラック) / Survivance / Momo Film Co.
『ナギダイアリー』
出演:
松たか⼦ ⽯橋静河
川⼝和空 藤原聖 藤間爽⼦ ⽔間ロン 申瑞季
松⼭ケンイチ
監督・脚本: 深⽥晃司
製作:四宮隆史
エグゼクティブ・プロデューサー:⼤野⼆郎 Guillaume Morel Jossette Atayde Maria Sophia Atayde Marudo
プロデューサー:⼤野敦⼦ ⻑井⿓ ⾓⽥道明
コ・プロデューサー:⼩⼭内照太郎 Carine Chichkowsky 陈思恩 佐藤央
撮影:四宮秀俊 照明:加藤⼤輝
録⾳:益⼦宏明 美術:⼤⽉由⾹⾥ 彫刻:吉⽥愛美
ヘアメイク:菅原美和⼦ スタイリスト:荒⽊⾥江
⾐裳:渡部祥⼦ キャスティング:吉川威史
助監督:⿅川裕史 制作担当:⼭村亘 編集:Sylvie Lager VFX プロデューサー:平野宏治
カラリスト:Sorawich Khunpinij
⾳楽:李沛芩 リレコーディングミキサー:Olivier Goinard エンディングテーマ:イーノ・チェン
In association with mk2 Films
後援:奈義町
製作:スターサンズ ⼋朔ラボ Survivance Momo Film Co. Nathan Studio ワンダーストラック
制作プロダクション:Lat-Lon
配給:スターサンズ
2026/⽇本、フランス、シンガポール、フィリピン/ヨーロピアンビスタ/5.1ch/カラー/110分/映倫区分:G
© 2026 ナギダイアリー・パートナーズ (スターサンズ/⼋朔ラボ/ワンダーストラック) / Survivance / Momo Film Co.
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