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映画『渇愛の果て、』有田あん監督、小原徳子さんインタビュー

現在名古屋シネマスコーレで公開中の映画『渇愛の果て、』。
「家族・人間愛」をテーマに、あて書きベースの脚本で舞台公演を行ってきた「野生児童」主宰の有田あんが、友人の出生前診断(しゅっせいぜんしんだん)の経験をきっかけに、助産師、産婦人科医、出生前診断を受けた方・受けなかった方、障がい児を持つ家族に取材し、実話を基に制作した群像劇だ。有田あん自身が監督・脚本・主演を務め、長編映画監督デビューを果たしている。シリアスな内容でありながら、軽快な会話を活かした作品で、助産師・看護師・障がい児の母との出会い、家族・友人の支えにより、山元家が少しずつ我が子と向き合う様子を繊細に描きつつ、子供に対する様々な立場の人の考えを描いている。

有田あん監督、竹中里美役の小原徳子さんに映画制作についてお話を伺った。

Q.元々舞台作品として始まったと聞いたんですが、映画になった経緯など教えてください。

有田あん監督(以後 有田監督)
「元々2020年の6月に舞台でやる予定だったんですが、2020年からコロナがだんだん佳境になってきて、3月ぐらいには中止を決めていました。台本はまだできていなかったんですが、こういう題材でやるというのは2019年の時から決まっていて、オーディションもやって、キャストも全部舞台なので決まっていた状態でした。3月の時点で舞台はこういう状況下では難しいという空気が小劇場界内にあって、だけど軒並み中止が続いていたので、小劇場暗黒時代じゃないですが、ネガティブオーラがすごくて、なんとかこれをポジティブに変えられないかなというのと、この題材は必ず何かしらの作品にしたいという思いだけはありました。 舞台がダメだったらエンタメが終わるような気がして。いつか映画を撮ってみたいということもありましたし、この前に小原徳子さんがきっかけで短編映画の監督をやらせてもらったことがあったので、だったらせっかくだし、今回は長編に挑戦しようかなと小原さんにも散々相談させてもらいながら、今回は映画にしようと決めました。大きかったのはやはりコロナ禍だったことですね」

Q.どれぐらいの期間で撮られているんですか。

有田監督
「2020年3月に中止と言ってから、撮影は9月頭。そこから1週間弱で1回撮りました。ただ、コロナ禍というのもあったので、1週間以上一緒にいるのが怖かったのと、私が長編に慣れていなかったということもあり、9月頭はちょっとライトなシーンだけ撮って、十月十日という妊娠を描く上で、絶対季節は分けようと思って次はめちゃくちゃ寒い冬のシーンと実景を撮りたかったので、12月に撮り、その翌年春に桜のシーンを撮りました。2021年の10月に1回完成して試写をやって、皆さんのご意見を聞いて、足りない、いらないというところを再編集して、2022年に追加撮影して、最後のワンカットも実はその時に撮ったりとかして、 ようやくそこから細かく編集して、今年の24年の4月で編集、最新版が完成したという流れです。だから、4回に分けて撮影した感じですかね。1回完成したけど、もう1回編集して追加撮影して。それを足すと1ヶ月弱ぐらいになる感じです」

Q.季節を感じながらの撮影となると、役者さんの方は繋がりを持たせたビジュアルに撮影の度に戻すことになるんですか?

有田監督
「皆さんに前の時に撮ったものの動画を送っていましたね」

小原さん
「一応、前こんな感じだったからちょっと伸びていたら調整してみたいに」

有田監督
「でも実際に季節が動いているから、いけるんですよ。逆に」

小原さん
「この短い期間で季節の変化を服やちょっとメイクを変えてとやるよりも、多分そっちの撮り方をみんなはしたいんだろうなと思いますね。インディーズ作品のいいところは多分それかなと思っていて。やっぱり監督がやりたいペースで、監督がやりたいものをちゃんと撮れる。それが何より大事だし、この撮り方はすごいと思いました。例えばありがちなのが、予算がないから5日間で撮ろうみたいな。それは「違う!違う!違う!」と思ってしまうというか。だから今回、さすがだなと思いましたね」

有田監督
「ありがたい。そう思ってもらえていたら」

Q.同級生4人で撮ったシーンで忘れがたいエピソードを教えてください。

小原さん
「有田さんの脚本の作り方というのが、舞台の時にまだ脚本がなかったということにもあるように当て書きをするんです。キャストと対話をして、実際にキャスト同士でも絡んでもらっているところを見て書いていくというスタイルなので、本当にその4人も、4人のキャラクターがそのまま映画に生きているんです。移動中も撮影中も「スタート」「カット」の間もあまり壁がなかったことがすごく印象的で、忘れがたいシーンというよりは、その壁がないという感覚が忘れがたいという感じでした。だから今回その上映にあたってみんな久しぶりに集まっても楽屋でもあの空気で(笑)」

有田監督
「本当にうるさい(笑)。にぎやかでした」

左:小原徳子さん 右:有田あん監督

左:小原徳子さん 右:有田あん監督

Q.あて書きという話が出ましたが、役の上での立ち位置としては小原さん演じる里美は同級生の中でもお姉さん的、先輩ママであったりというポジションだったんですが、監督の中では小原さんに対してはそういうイメージなんですか?

有田監督
「里美の土台となっているのが、皆さんが描きやすい普通のママで、普通を知った上で俯瞰で見られる人にやってほしいというのはありまして。小原さんには舞台の時から相談もしていましたし、「舞台中止になって映画にするけどどう思う?」とか基本的にほとんど小原さんに最初に相談している感じだったんです。小原さんは俯瞰でこの企画自体も見てくれていますし、普通というのを演じるって意外にすごく難しいというか。色をつけたがる役者さんが本当に多いから、土台をしっかり守ってくれるという信頼感と普段の関係性から里美は小原さんがいいかなというのはありました」

Q.今回は山元家が中心にはなっているものの、様々な形の家族を描いている物語です。劇中では語られない竹中家の裏設定もあったんでしょうか。

小原さん
「出生前診断を受けている夫婦なので、実際それは夫役の大山大さんと一緒に、撮影前に自分だったらどうするかという話をしました。自分だったらこういう考え、多分こういう会話をするみたいなことは結構語り合いました。それは本当に過去の病院でのシーンに生きたんじゃないかなと思います。不安な気持ちとか、私は「そうだよね、男性ってそうなるから、 こっちはちょっと冷静でいなきゃだよね」みたいなところはありました」

Q.武田家はどうですか?(笑)

有田監督
「武田家も割とそのままなんですよ。大阪出身者で固めるというのはこだわりで、 絶対になんとなく関西とかにはしない。本当に大阪出身者。辻凪子さん以外は、私は共演したことがあって、とても信頼できるお2人で。辻さんはワークショップとかで一緒だっただけなんですが、明るいこともできるし、明るい雰囲気にも慣れているし、真面目にもできるというので、3人とも信頼できて。 コロナの時期だったので、オンラインで最初本読みをしたんですが、その時にこっちのグループでやったようにお人柄をそのまま生かさせてもらって、言いづらかったら言い換えてもいいですよと変えたりとか。例えばお蕎麦屋さんの最後のシーンでお母さんが急にウクレレの話をするところは、実はあのシーンは本当は外のシーンだったんです。お蕎麦屋さんの中だけで終わらせるのではなくて、最後は外でじゃあまたと別れるところを撮りたかったんですが、雨が降ってしまったので、蕎麦屋の中で終わらせたいなと思って、当日の朝にセリフを考えて、最後まで重い空気というのは武田家っぽくないなと思って、皆さんが色々話している中で、お母さん役のみょんふぁさんに「最近始めたこととか趣味とかありますか?」と聞いたら「ウクレレ」と言ったので、それめっちゃ面白いですねということでセリフに採用したという感じです」

Q.4人の同級生の家族のシーンだけではなく、医療従事者の方々の方も悩まれていたり、本音が出たりというシーンがありました。両方を描こうと思われたのはどんなことはきっかけだったんでしょうか。

有田監督
「この映画自体の大元が私の友人に起きたことで、 それをきっかけにもう少しこういう情報が前もって知れていたら、私も含め当事者以外の周りの方も準備できたんじゃないかというところからスタートしたんです。もちろんその友人に作品にするよと許可を取りに行った時に「全然してもらっていいけど、病院が悪いとか、家族が悪いとか、どっちかが悪いという風にはしないで」というのが約束だったんです。 友人側で見ていると、どうしてもお医者さんがちょっと悪くなりそうで、その目線は入れないと歪みそうだなと思ったので、助産師役を演ってくださった輝有子さんのお知り合いの産婦人科医の先生や助産師さんをやっている方をご紹介いただいて。このお2人にその役職ならではのジレンマを伺いました。例えば助産師、産婦人科医の先生だったらもうちょっと詰め寄ってあげたいけど、感情的になってしまうとどうしてもお医者さんの方が力を持ってしまい、 習性で診断を受けた方がいいよと言ったらほとんどの方がしてしまうので、極力情報だけを冷静に伝える時にジレンマを感じるという話は確かに入れたいなと。助産師さんは逆に産婦人科医さんにはできない「他人だけど、1番近い距離で話せる人としていたい」と言われるんです。お2人のお仕事をやっていく上でのモットーにしてることとかを聞いて、それは今聞けているから私はその思考が走るけれど、聞いていなかったらいつまでもお医者さんはどうしてこんな言い方なんだろうと思っちゃいそうだなと思ったので、この思考もぜひ作品に盛り込んで、観た後に病院に行った時にお医者さんの考えもわかるようになったらこの映画は豊かな映画になるな、そういう作品にしたいなと思いました」

Q.やっぱりいつかはこの作品を舞台の方でもという構想があったりしませんか?

有田監督
「映画化するので、映画にしかできないことをと思って、演劇ではできない構成にしたんですよ。過去のことを入れるとか、実景を入れるとか。映画で1番私がありがたいと思うところは、ジャンプできることです。時代も場所も舞台よりそれがかなりやりやすいので、それをここぞとばかりに使ったのが今回だったんです。舞台だったら結構見せ方が多分変わるだろうなと思います。映画を上映させていただくと、舞台でも見てみたいとお客様から言っていただくこともあって、 実際映画に出演している役者の半分ぐらいは舞台にも出ていただく予定だったので、その役者たちからも舞台版もやりたいけどなというお声もいただくので、この映画の上映を来年も続けつつ、舞台もできたらなというのは、ちょっとどこかでふつふつとは思っています」

映画『渇愛の果て、』 https://www.yaseijidou.net/katsuainohate は現在名古屋シネマスコーレで公開中。

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