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決して器用とは言えないケイコの生き方に共感(映画『ケイコ 目を澄ませて』)
岸井ゆきの。変幻自在の女優である。時にはとてもかわいらしく、時に饒舌で、時には物静かで。
そして12月16日から公開の映画『ケイコ 目を澄ませて』では聴覚障害を持つプロボクサーを演じる。セリフはほとんどないというのに観る人は彼女が抱える迷いやもどかしさを彼女の表情と纏う空気からしっかりと感じることが出来るだろう。
あらすじ
嘘がつけず愛想笑いが苦手なケイコは、生まれつきの聴覚障害で、両耳とも聞こえない。再開発が進む下町の一角にある小さなボクシングジムで日々鍛錬を重ねる彼女は、プロボクサーとしてリングに立ち続ける。母から「いつまで続けるつもりなの?」と心配され、言葉にできない想いが心の中に溜まっていく。「一度、お休みしたいです」と書きとめた会長宛ての手紙を出せずにいたある日、ジムが閉鎖されることを知り、ケイコの心が動き出す。
ボクシングを続けるか。一人葛藤するケイコ
ボクシングはひたすら自身と向き合いながら、鍛練を積み重ねていくスポーツだ。相手と闘う前に自分自身と闘う者、“ボクサー”の葛藤や迷いが映しだされ、観る者の心に響く。日本で数年置きにボクシング映画が制作されているのは、人の内面を映すというそんな理由からかもしれない。
ケイコも一心にボクシングに没頭しているように見えるが、心の中には不安もあった。プロになり、試合をすることで、この先も続けるかどうか迷い、葛藤する。
ケイコには主役としても、脇役としても存在感を放ち、今年も映画、ドラマに引く手数多の岸井ゆきの。撮影3か月前から厳しいトレーニングを受け、撮影に臨んだ。ケイコのまっすぐな気持ちを理解し、温かく見守るボクシングジムの会長役の三浦友和の存在感、トレーナー役の三浦誠己、松浦慎一郎のケイコに対する優しさと厳しさもいい。松浦は現役のトレーナーとしてもこの作品に貢献している。
この作品は実際に聴覚障害のある元プロボクサー・小笠原恵子の自伝「負けないで!」を原案に製作された。

監督は『きみの鳥はうたえる』の三宅唱。「負けないで!」からインスピレーションを受け、聴覚障害者からもじっくり取材し、作りあげた。
生まれつき聴覚障害のあるケイコには試合ではゴングの音もセコンドやレフリーの声も聞こえない。その中で闘うケイコの強さだけではなく、ケイコの毎日を丁寧に捉えた。働く姿、家族、友人との会話、ボクシングのトレーニング。聴覚障害者の日常を描くことで、聞こえる人達に、普段気がつかない気づきを与えている。
コンビニで声をかけられても、ぶつかって文句を言われても気のない反応をするのは、ケイコには聞こえておらず、気づいていないからだ。この作品を観ると、音が耳にストレートに入ってくる。ケイコには聞こえない日常の音が非常に際立つ形で収録されており、私たちが普段当たり前に聞いている音が聞こえることが実は当たり前ではないことを改めて感じさせられる。
映像の色味にも注目したい。今はほとんどの作品がデジタル撮影だが、この作品は16ミリフィルムで撮影されている。通常フィルムであれば35ミリが普通なのだが、あえて16ミリで撮影し、ざらっとしていながら、その中に温かさもある質感になっている。

決して器用とは言えないケイコの生き方に共感する。まっすぐだからこそ、許せないものも、妥協出来ないものもある。ひたすらケイコは目を澄ませて、周りの人々と接しながら、自身の中の葛藤と向き合い生きていく。
この作品は『UDCast』『HELLO! MOVIE』方式によるバリアフリー音声ガイド、バリアフリー日本語字幕に公開日の12月16日(金)から対応する。
『ケイコ 目を澄ませて』https://happinet-phantom.com/keiko-movie/ は12月16日(金)よりテアトル新宿他でロードショー。東海3県では12月16日(金)よりセンチュリーシネマ、中川コロナシネマワールド、ユナイテッド・シネマ豊橋18、ミッドランドシネマ名古屋空港で公開
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