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前を向いて生きよう 映画『小春日和〜Indian Summer〜』楠部知子プロデューサー インタビュー
37年間、精神科医として多くの心に寄り添いながら、役者としても活動してきた楠部知子さん。2023年に血液のがんである多発性骨髄腫の診断を受け、現在も抗がん剤治療を継続する彼女が、企画・プロデュース、そして出演までを行う長編映画『小春日和〜Indian Summer〜』が7月25日(土)から名古屋シネマスコーレで公開される。
「折角がんになったのだから、この経験を活かしたい」と語る楠部さんに、闘病の現実から映画製作の舞台裏、そして作品に込めた想いまでをたっぷりと伺った。
突然の「多発性骨髄腫」の診断――落ち込むよりも「やっぱり」だった
Q. 2023年の2月に名演小劇場での映画『茶飲友達』舞台挨拶の取材でお会いしています。あの時はもう病名はわかっていたのでしょうか。
楠部知子プロデューサー(以後 楠部P):
「実は、2023年の春に診断が下りる前から、ずっと体に異変を感じていました。名演小劇場でお会いした頃には、すでに自分でも自覚があって、だいぶ痛みを抱えていました。当時は小さな杖をついていたのですが、整形外科では「ぎっくり腰かな」「年のせいだ」と言われ、レントゲンを撮ってもはっきりとした原因がわからなかったんですね。でも、MRIを撮ってみたら、なんと背骨は2箇所圧迫骨折していて、肋骨も4本折れていたことがわかりました。「それは痛いはずやわ!」と(笑)。だから、正式に「多発性骨髄腫」だと診断されたときは、落ち込むというよりも、「ほら、やっぱりそうだったんだ」と、自分の予想が当たった納得感の方が大きかったのを覚えています。38歳のときには大腸がんも経験しているのですが、両親を胃がんで亡くしているので、私はてっきり自分も死ぬときは消化器系のがんだろうなと思っていました。だから血液のがんと言われたときは「おっと、そっちが来たか」という感覚でした」
Q. 治療を続けながらのお仕事や映画製作は、想像を超える大変さだったのではないでしょうか。
楠部P:
「血液のがんは大腸がんと違ってイメージがしづらく、入退院を5回ほど繰り返しました。初めて抗がん剤を打つときは副作用の出方を見るために長めに入院し、その後も薬の調整や骨髄移植のために病院へ入る必要がありました。ただ、継続して患者さんを診なければならない病院の外来診療などはお休みさせていただきましたが、児童相談所や教育センターといった単発のお仕事は、退院している合間にスケジュールを調整して続けさせていただきました」
Q.日常を変えないスタンスがすごいです
楠部P:
「何もしなかったら収入もなくなっちゃいますからね(笑)。それに自分の中に「やるべきこと」がある方が、精神的にも絶対に良いなという確信がありました」
映画を作るきっかけは、がん治療中の女優3人で結成した「キャンサーズ」
Q. 「せっかくがんになったから、この経験を活かせないか」という楠部プロデューサーの言葉が印象的です。この思いはどのように映画製作へと繋がっていったのですか?
楠部P:
「実は映画の話が立ち上がる前に、がん治療中の女優3人で「キャンサーズ」を結成したのが始まりです。私が自分の検査結果を待っていた時期と並行して、子宮頸がんになった女優の桐生紗衣さんから「落ち込んでいる」とLINEが来ました。もう一人の森野くるみさんが乳がんを経験していたのを知っていたので、私は「落ち込まないで!あなた女優なんだし、3人揃ったら『キャンサーズ』ってグループができるやん。絶対それ面白いよ!」って、自分の診断を待ち構えるような気持ちで声をかけたんです(笑)。それで、私の結果も出たので、「よし、これで3人揃ったから活動できるぞ」と。通院治療で孤独を感じがちな人たちに向けて、日々の元気な姿や、治療のちょっとしたお役立ち情報をYouTubeで発信し始めました。そうしたら、観てくださった方から「元気が出た」「頑張ってね」というコメントを少しずついただけるようになって。「じゃあ、もうちょっと長い物語を残してみてもいいんじゃないかな」と思ったのが最初のきっかけです。知り合いの監督さんに頼んで20分から30分くらいの短編映画を撮ってもらおうというささやかなイメージでした。それが気がつけば、こんな大作になってしまって(笑)」

Ⓒ2026「小春日和」PROJECT
誠実な「正攻法」のお手紙が結んだ豪華キャスティング
Q. 当初は短編の予定だったものが、これほど大きな規模になったのははなぜでしょうか。
楠部P:
「きっかけは、松本動監督とのご縁でした。以前、立川の映画祭で松本監督とご挨拶したことがあり、その時に今回の主演を務めてくれた水村美咲さんが主演で松本監督が監督している自主製作映画の予告編も流れていたんです。水村さんに出演をお願いするにあたって、「松本監督に撮っていただけるか聞いてみて」と間に入ってもらいました。松本監督は、私の病状のことも含めて非常に責任を持って向き合おうと真剣に考えてくださり、「もしもの時にあとを引き継いで走れる仲間をちゃんと集めておいてください」と言われました。それで水村さんや、経理を引き受けてくれた福井由美子さん、役者仲間など計5人のプロジェクトチームを結成したんです。そこで監督から「せっかくなら短編じゃなくて、ちゃんとした長編映画にしましょう。1人くらい有名な人も頑張って呼んでみましょう!」と提案をいただきました。
Q. そこからどのようにして、名だたる俳優陣へのオファーを成功させたのですか?
楠部P:
「皆さんから「どうやって呼んだの?」と聞かれるのですが、本当に何の縁もゆかりもないところからのスタートです(笑)。プロデューサーとして、ダイレクトに気持ちを書いたお手紙と、企画書、台本を添えて、事務所へ郵送するという完全な「正攻法」でオファーをしました。特に、おばあちゃん役の由美かおるさんは何十年ぶりの映画出演でしたし、「ダメ元で、失うものは何もないから送ってみよう!」とみんなで盛り上がって送ったんです。そうしたら、しばらくして突然事務所からお電話をいただいて、本当にひっくり返るほど驚きました。柴田理恵さん、佐野史郎さんの他にも関西からは国木田かっぱさんなど実力派が集まってくださり、作品の趣旨に共感してくださった皆さんの熱意には感謝しかありません」

Ⓒ2026「小春日和」PROJECT
「オファー以外も全部大変!」 初めてのプロデューサー業
Q. 今回、初めてプロデューサーという裏方の仕事、そして全体を統括する役割を経験されていかがでしたか?
楠部P:
「キャスティングオファー以外も全部大変でした(笑)。私はパソコンが使えないんです。制作スタッフさんもお願いはしていましたが、その方も映画の制作専門ではないので、お互いに「これできてますか?」と確認し合いながらの手探り状態でした」
Q.ロケハンもされたんですよね?
楠部P:
「ロケ地探しも一苦労で、最初は春休み期間と被ってしまい、イメージしていた大阪の旅館などがすべて全滅でした。諦めずに探した結果、瓢箪山(東大阪市)の古民家風のゲストハウスをお借りできることになり、その近くの「サンロード瓢箪山(神社モール商店街)」や、雰囲気のあるお店を拠点に撮影を組み立てていきました。撮影中、おばあちゃんの店としてお借りした店の方にはかなりお店の営業を休んでいただきました。しかもお店のカウンターにあった大きなお魚の水槽を2つどかさなければならなかったのですが、撮影前に綺麗に移動させておいてくださって。地域の方々の全面協力には本当に頭が上がりません」
Q. 撮影中はずっと現場に行かれたのですか?
楠部P:
「2週間の関西ロケの間、私はプロデューサーとして現場に付きっきりでした。クランクインの朝、現場に到着した瞬間に「プロデューサー、隣の家に謝りに行きますよ!」と呼ばれて、謝罪からスタートしたくらいです(笑)。その合間に自分も「キャンサーズ」のメンバーとしてベッドの上で治療を受けているシーンの撮影があったので、「明日、私たちの撮影だっけ?」という状態で、撮影でベッドに入ると睡魔に襲われるという状態でした」
Q. 撮影には東京と関西のスタッフが参加されていますが、現場の雰囲気はどんな感じでしたか
楠部P:
「現場では、クオリティ重視でシリアスに追い求める東京のスタッフと、「楽しく撮ろうや!」というアットホームな関西のスタッフとの間で、最初はやり方の違いもありました。でも、撮影が進むにつれて双方が良い形で馴染んでいって、最終的には関西側が「めちゃくちゃ勉強になった」と言い、東京側も「また一緒にやりたいね」と言って撮了出来たのが、プロデューサーとしては本当に嬉しかったですね」
映画の真ん中にあるのは「がん」ではなく、ある女性の成長の物語
Q. 本作は「がん」という重いテーマを扱いながらも、物語の中心には「自分の人生から少し逃げてしまった女性(小春)の成長」が据えられています。この構成には意図があったのでしょうか。
楠部P:
「最初から「がんの映画です」という作品には絶対にしたくない、という強い想いがありました。どうしても「がんの映画」と聞いてしまうだけで、「お涙頂戴で誰かが死んで泣かされるんだろうな」「私は見たくないな」と敬遠してしまう人がいるじゃないですか。がんはあくまで脇役です。そういう想像をされるのが嫌だったんです。、この作品では脇役。真ん中にあるべきなのは、主人公の小春が自分の抱える困難にどう立ち向かっていくか、そして様々な人と出会う中で「もうちょっとだけ頑張ってみよう」と思えるようになる前向きなヒューマンドラマです。私自身の精神科医としての臨床経験が、直接的にどのシーンに活きているというわけではありません。けれど、「自分だったらこういう時、こう考えるかな」「人に対してこういう距離の取り方や接し方をするかな」という、私がこれまでの人生で培ってきた人間関係の紡ぎ方は、作品のいたるところに自然と染み出していると思います」

Ⓒ2026「小春日和」PROJECT
観客から届いた予想外の感想、そして上映を望む声
Q. 大阪での先行上映を経て、実際に映画を観た方々からはどのような感想が届いていますか
楠部P:
「大阪での上映では新聞に取り上げていただいたこともあり、実際の患者さんやそのご家族がたくさん足を運んでくださいました。私たちが企画書に書いていた「希望を持てる映画にしたい」「がん一色の映画にはしない」という立派な目標が、本当に届くのだろうかと不安もありましたが、驚くほどまっすぐに伝わっていました。おもしろいのは、観る人によってフォーカスする場所が全く違うことです。「これは家族の映画ですね」と言ってくださる方もいれば、作中の若者のエピソードから「命の選択について深く考えさせられた」という方、また「グリーフケア(大切な人を亡くした心のケア)の素晴らしい教材になる」と言ってくださる方もいました。中には、「観終わったあと、少し気まずかった家族と家に帰っていろんなことを話し合えました」という声もあり、本当に嬉しかったでね。中高年だけでなく、あらゆる世代の人に自分を重ねて観てほしかったので、人間関係が分かった上でもう一度観ると「だからあの時、あの人はあんな顔をしていたんだ!」という気づきがあると言って、リピートしてくださる方もたくさんいらっしゃいます。今では、学校や病院、ライオンズクラブなどで上映したいというお問い合わせも届き始めていて、今後の広がりにワクワクしています」
Q. ついに7月25日から名古屋シネマスコーレでの上映も始まります。これから映画館へ足を運ぶ方々へ向けて、見どころやメッセージをお願いします。
楠部P:
「この映画に出てくる登場人物は、みんなそれぞれに事情や辛い問題を抱えています。けれど誰もがなんとか前を向いて進もうともがいている人たちばかりです。映画を観終わったあとに、「自分もあと一歩だけ頑張ってみようかな」と感じていただけたら嬉しいです。ぜひ、ご自身が一番感情移入しやすい登場人物に寄り添って、彼らの物語を追いかけてみてください」

楠部知子プロデューサー
映画『小春日和〜Indian Summer〜』https://koharubiyori-movie.com/は 7月25日(土)から名古屋シネマスコーレで公開。公開日から2週間は毎日上映後舞台挨拶あり。公開初日には由美かおるさんも登壇予定(詳細は以下)
| 日時 | 登壇者 |
|---|---|
| 7月25日(土) | 水村美咲、千原ゆら、由美かおる、楠部知子、山岡孝平、あっぱれ北村、福井由美子、松本動 監督 |
| 7月26日(日) | 水村美咲、楠部知子、山岡孝平、あっぱれ北村、福井由美子、三好香、松本動 監督 |
| 7月27日(月) | 水村美咲、楠部知子、三好香 |
| 7月28日(火) | 楠部知子、森野くるみ、三好香 |
| 7月29日(水) | 楠部知子、森野くるみ |
| 7月30日(木) | 水村美咲、楠部知子 |
| 7月31日(金) | 水村美咲、楠部知子 |
| 8月1日(土) | 楠部知子、藤元優希 |
| 8月2日(日) | 楠部知子、山岡孝平、クニミノブヒコ、藤元優希 |
| 8月3日(月) | 楠部知子、クニミノブヒコ |
| 8月4日(火) | 楠部知子、森野くるみ |
| 8月5日(水) | 楠部知子、福井由美子 |
| 8月6日(木) | 楠部知子、ゲスト:渡邊潤子 (名古屋葵大学 医療科学部 理学療法学科 講師) |
| 8月7日(金) | 楠部知子、ゲスト:加藤千佳(元CBCアナウンサー MC・ラジオパーソナリティ) |
映画『小春日和〜Indian Summer〜』
出演:
水村美咲
千原ゆら 山岡孝平 正木佐和 上杉逸平 楠部知子 森野くるみ 桐生紗衣
日永貴子 松田悠 木下菜穂子 藤元優希 うば・さくら 川崎久志 竹田裕美子 藤崎美和 沢田健太朗
福井由美子 及川規久子 三好香 高橋瑞佳 小夏いっこ 桂ゆめ 井上楓 井上柊 木田翼 お白湯
国木田かっぱ 倉田操 宮川隼人 あっぱれ北村 とみかほ クニミノブヒコ
佐野史郎 柴田理恵
由美かおる
企画・製作・プロデュース:楠部知子
脚本・監督:松本動
共同プロデュース:水村美咲
アシスタントプロデューサー:福井由美子
音楽プロデュース:渡邊崇
助監督:鬼村悠希 制作担当:佃光
撮影:安田光 照明:落合芳次
サウンドデザイン:西岡正巳
監督助手:山中太郎
演技事務:森野くるみ 藤元優希
主題歌:由美かおる「とまり木」
宣伝:とこしえ 関西宣伝:松井寛子
配給:フリック
Ⓒ2026「小春日和」PROJECT
2026 年/日本映画/カラー/シネマスコープ/ステレオ/119 分
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